苦恋症候群
よ、よかった……見られたのが、三木くんで。

しかも、相手が真柴課長だったということは気づかれなかったみたいだし。

もし、このことが社内に広まったりしたら……自業自得だけど、私も課長もこの会社にいられなくなってしまう。


けれど安堵の思いで脱力したのも、一瞬のこと。

次の彼のセリフで、また私の胸はひやりと冷たくなる。



「……総務企画部の、真柴課長って。たしか奥さんいますよね」



その言葉に、私はパッと顔を上げた。

見下ろす先、まっすぐにこちらと視線を合わせる三木くんの顔は、先ほどから変わらないクールな無表情。

だけど、その瞳が……少しだけ軽蔑したような眼差しに見えてしまうのは、私の被害妄想なのだろうか。
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