苦恋症候群
「……出なくていいんですか?」



画面を見つめたまま固まる私を不審に思ったのか、三木くんが訊ねてくる。

このまま無視するのもアレだし……しょうがないなあ。鳴り続けるスマホにひとつため息をこぼして、私は通話ボタンをタップした。



「もしもし、ヤス?」

《おっ、出た。お疲れーサト、おとといぶり》



この同期とは、つい2日前の飲み会で会ったばかりである。

楽しかったその日のことを思い出してふっと表情を緩ませながら、言葉を返した。



「おとといぶり。どしたの、わざわざ昼休みに」

《いやあのさ、忘れないうちに連絡しとこうと思って。今度サト、ウチ遊びに来いよ》

「ヤスんちに? いーの?」



その『いーの?』は、もちろん出産したばかりのヤスの奥さんを気遣っての言葉だ。

電話口から、聞き慣れた笑い声が届く。



《今さらなに遠慮してんだ。他の同期メンバーも誘ってさ、祐美もみんなに会いたがってるよ》

「そっか。私も会いたいな」

《なら決まり。ウチはいつでもいいから、悪いけど他のやつらにも声かけといて》

「わかった。調整しとく」



別れ際の挨拶をして、通話終了の文字をフリックする。

ディスプレイが待受画面になったのを確認し、またそれをポケットにしまった。
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