苦恋症候群
ちょうどそのときポケットの中のスマホが震えて、驚いた私はびくっと肩をはねさせた。

メールなら、2回だけバイブが鳴るように設定してある。だけど今はずっと鳴り続けてるから、おそらく電話の着信だろう。


バイブの音は三木くんにも聞こえたらしく、視線で『どーぞ』と促される。

ポケットからスマホを取り出して確認してみると、ディスプレイには予想外の人物からの着信が示されていた。



「……ヤス?」



表示された名前を、つい、漏らしてしまう。

同時に眉をひそめる私に、三木くんも少しだけ怪訝な表情をしたのがわかった。


たぶんこの着信は、プライベートな電話だ。仕事の話なら、昼休みを避けて内線でかけて来るはず。

そしてこれは、なんとなくのカンだけど……こういうヤスからプライベートな電話は、今までの経験からいってロクな話題じゃない。

いつだったかは、「ごめん、明日提出の通信講座の添削、今日仕事終わったら写させて!」。

あるときは、「女の子をデートに誘うのに、オススメの店ある?」。

そしてこないだかかってきたときは、「中二のとき数学の担当だった先生の名前なんだっけ?」。


メールで済むじゃない、っていう感じの内容でも、メールが苦手らしいヤスは、自分が思い立ったタイミングで遠慮なく人様に電話をかけてくるのだ。
< 185 / 355 >

この作品をシェア

pagetop