苦恋症候群
「ご、め……ごめんなさい、三木くん」



彼は、何も言わない。

その顔を見ることも叶わないまま、私は繰り返した。



「迷惑ばっかりかけて、ごめん。……私、帰る、ね」



逃げるようにそう言って、三木くんのマンションを出た。

当然だけど、後から追ってくる気配なんてない。私はしばらく小走りで道を進んでから、完全にマンションが見えなくなったあたりで、たまらずしゃがみこんだ。



「……ほんとはずっと、迷惑だったんだ……」



バーでも。屋上でも。花火大会でも。

つぶやいた瞬間、それまで我慢していた涙が嘘のように決壊して、ぼろぼろとこぼれ落ちた。

ここは道ばたで、横を通りかかる人たちが不審そうな視線をわたしに向けていくけれど、それを気する余裕もない。


仲良くなれたと思っていたのは、私の方だけだったの。

三木くんはほんとは、嫌々付き合ってくれてただけだったんだね。


……だから今、悲しいと思ってしまっているこの感情も、ただのひとりよがりで。

彼はこれっぽっちも、私のことなんか、気にかけていなくて。



「っふ、う……っ」



冷ややかな言葉と、私を見下ろす苦しげな瞳が、まぶたの裏に焼き付いてる。


……『嫌い』って、言葉。

結構、キツいんだ、なあ……。
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