苦恋症候群
私はなんと言ったらいいのか、言葉に詰まる。

すると葉月さんはひとつ息をついてから、思いがけないセリフを口にした。



「これは言おうかどうか、正直迷ってましたけど。この際言っちゃいます」

「え?」

「あたしが、ちゃんと三木さんに振ってもらえたのは……ちょっと悔しいですけど、森下さんのおかげなんだと思います」



その言葉に、思わず驚いた表情で彼女を見つめてしまう。

指先で紙コップをもてあそびながら、葉月さんは続けた。



「今年の4月に、三木さんが本部に異動になって。同期みんな、三木さんのこと疲労困憊なんだろうなって思ってたんです。審査部って、毎日遅くまで残業してるイメージだし……その同期会も予定組んでる段階から、日頃疲れてる三木さんを元気づけようって、みんな勝手に盛り上がってて」

「……うん」

「だけど実際集まってみたら、案外三木さんは元気そうで。そこで誰かがおもしろ半分に言ったんです、『元気の源になるような人でもできたのか』って」



その言葉に、どきりと心臓が大きくはねる。

三木くんの……元気の、源になるような人?

知らずうち、紙コップを持つ手に力がこもった。


小さく息をついて、彼女はまた口を開く。



「三木さんはそれを否定しながらも、ちょっと笑ってて。『ただ、息抜き仲間がいるだけ』って言ってました」

「えっ、」

「それって、森下さんのことなんじゃないんですか?」



疑問形ではあるけれど、ほとんど断定してるみたいな言い方。

まっすぐに視線を向けられ、それを避けることもできずに呆然と見返す。
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