苦恋症候群
「……遥くん、どうしたの?」



冬は空気が澄んでいるからか、星が綺麗だ。

まだ闇色に染まる空に、タバコの白い煙が上がっていく。

その煙を追うように夜空を見上げている彼の目もとが少しだけ濡れているような気がして、私は思わず訊ねた。

ただひたすら空から目を離さずに、彼は静かに口を開く。



「……夢を、みたんです」



ぽつりとつぶやいたそれは、こんなに近くにいても、掠れて聞こえるほどに小さな声だった。



「ゆめ?」

「……真っ白な雪の中で……雪妃が、立っていました。俺の方を、見つめてて……」

「……うん」

「今まで、俺の夢に出てくる彼女は……いつもどこか、悲しそうな顔をしていたけど」



けど、と。

彼はそこでうつむいて、ひたいに、タバコを持ったこぶしを押しつける。



「今日見た雪妃は、笑ってた。……安心、したみたいに、笑ってた」

「……うん、そっか」



静かにうなずいて、私は手すりに置いた彼の冷たい左手を握る。

その、震えた手をあたためるように。ぎゅっと、強く。


たぶん、彼の中にある罪悪感は、一生消えない。

それでも、前を向いて生きていくと決めた。

それをきっと、雪妃さんもよろこんでくれてるんだって。

背中を押して、くれてるんだって。

ただの願望だと、言われてもいい。妄想だと、笑われてもいい。

そうして私たちは、許し合いながら、支え合いながら、生きていく。


夜空で瞬く星だけが、寄り添う私たちをずっと見つめていた。










/END
2014/08/28
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