苦恋症候群


◆ ◆ ◆


「はあ……」



昼休み、会社の休憩室にて。

お弁当箱を包むナフキンをほどきながら無意識についた大きなため息に、斜め向かいに座っていた田辺さんが反応した。



「葉月さん、お疲れねー。ヨーグルト食べる?」

「あ、すみません、大丈夫です……」



ペットボトルの横に置いていた自分用のヨーグルトを差し出そうとしてくれる田辺さんに、とっさに笑顔を向けて控えめに手を振る。

田辺さんは、同じ本店に勤務するパートさん。もう7年もここの窓口に座っている、ベテランさんだ。



「まあ、出納係は忙しくて疲れるよね。無理しちゃダメよ~」

「ありがとうございます」



気のいいおばちゃんといった風貌の田辺さんは、こんなふうにいつもやさしく励ましてくれる。

……けど、さすがに言えない。

ため息の、理由が……つい3日前の金曜日に、今までずっと同期をやっていたはずの男と、寝てしまったからだなんて。
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