苦恋症候群
「──自殺した。おととい、自分が住んでるマンションの部屋で首吊って」

「……っえ、」

「相当、仕事のことでストレスが溜まっていたらしい。遺書にも、そう書いてあったって」



私は何も言えず、ただ彼の次の言葉を待つ。

課長が握りしめるグラスの中の氷が溶けて、カランと音をたてた。



「笑っちゃうよな。学生時代も、就職してからも……あいつとは、なんかずっと、縁があって。これからも、変わらないと思ってたのに。別れるときは、こんなに呆気ないんだ」

「課長……」

「あいつ、支えてくれる奥さんも、子どもだっていたのに……ほんと、馬鹿だ……っ」



テーブルの上にある、グラスを掴んでいない左手をぎりりときつく握る。

そんな課長に、どんな言葉をかければいいのか、わからなくて。

ただひたすら、苦しげにゆがむその横顔を、私もまた切ない思いで見つめていた。
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