苦恋症候群
ふと、彼のこぶしから、力が抜ける。



「……1週間くらい、前に。あいつから、珍しく連絡があったんだ」

「え……」

「久々に、ふたりで飲まないかって。けど俺、立て込んでる案件があったから……その日は、行けないって……っ」



とうとう彼の左手が、その目元を覆い隠した。

重たいものを吐き捨てるように、固く苦しい声が真柴課長の口から漏れる。



「あの日、俺が、あいつの話を聞いてやれれば……なんとか、できたんじゃないかって……っそんなことばかり、考える」



言葉が終わるのと同時に、課長は深く息をついた。

私はもう、彼の話に相づちを打つことすらできなくて。


……この、やさしいひとを。

どうして神様は、苦しめるのだろう。

仕事中も、いつも私たち部下のことを、気にかけてくれる。

そんなひとを、どうして。
< 51 / 355 >

この作品をシェア

pagetop