苦恋症候群
「……三木、くん?」

「森下さん。びっくりした」



そんなに驚いてもいなさそうな表情と声音で、三木くんがつぶやいた。

私は思わず目をまたたかせ、その顔を見上げる。



「偶然だね、ひとり?」

「ハイまあ……森下さんこそ、事務部メンバーで二次会行ったんじゃないんですか?」

「山岸部長、お酒飲めない人だから。うちは宮信会の後はいっつも解散で、みんな他の支店に合流したり帰ったり自由なの」



話しながら、道の真ん中からすぐ横にあったコンビニの前にふたりで移動した。

会の行われていたホテルからもほど近いこの繁華街は、よく二次会などでうちの会社の人間も利用している。

だから、カラオケでばったり他の支店の人たちと会ったりすることも珍しくはないんだけど……。

まさか三木くんと遭遇するなんて思ってもなかったから、内心かなり驚いた。


私の返答を聞いて、彼が小さくうなずいてみせる。



「へぇ、いいですねそれ」

「あはは、気ままなもんだよー」

「じゃあ森下さんは、深田さんのところにでも行ってたんですか?」

「……ええっと、」



三木くんの問いかけに、なんと答えようか言いよどんだ。

それに何か察したらしい彼が、私のつま先から頭のてっぺんまで1度視線を走らせてから、また口を開く。



「もしかして。森下さん、この時間までひとりで飲んでたんですか?」



あまり、表情は変わらない。それでもなんだか呆れているようにも聞こえるその声に、へらりと曖昧な笑みを返した。

今度は私が、彼へと問いかける。
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