苦恋症候群
「三木くんこそ。審査部は、いつも二次会三次会はあたりまえって聞いてるけど」

「……明日朝から用事あるとか適当に理由つけて、早めに抜けてきたんです」

「ええ? やるねー」

「だって法務部の上席とかもいるんですよ。息詰まるっつの」



彼もアルコールが入っているからか、なんだかいつもより饒舌に思える。

ちょっとだけうんざりしたような表情をした三木くんに小さく笑って、バッグを肩にかけ直した。



「じゃあ、三木くんはもう帰るんだ?」

「いや、せっかくなんで、よく行く店に顔出してこうかと」

「へー……」



つぶやきながら、じっと、目の前の三木くんを見上げる。

そんな私の様子にまたもや何か感じとったらしい彼が口を開くより先に、にっこりと微笑んだ。



「ねぇ、私もそこに行ってもいい?」

「え」

「ていうか、三木くん飲みに付き合ってよ。おごるからさー」



お酒が入ってるとき特有の、間延びした声で言いながら首をかしげる。

三木くんは若干戸惑ったような表情で、そんな私を見下ろした。



「いや、別におごらなくてもいいですけど……本気で言ってます?」

「ほんきよほんきー。よしじゃあ、行こうか!」



勝手にそう言い切って、私はまた歩き出した。

どうせ飲むなら、ひとりよりふたりの方が楽しいしね。

ものすごく異色メンバーだけど、今夜は彼に付き合ってもらおう!

ひとつため息をついた三木くんが、ずんずん進む私の後ろから口を開いた。



「森下さん、そっち反対方向ですけど」

「あれ?」



かくして、私と三木くんのまさかのふたり飲みは実現したのである。
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