苦恋症候群
「それじゃあ、送ってくれてありがとう」



シートベルトを外しながら、私は若干しかめっ面のままそう言った。

いいえ、と返事をする運転席の三木くんの表情は、とっくに普段のクールなものに戻っている。


……なんか、やっぱり謎だな、三木くん。

そんなことを思いながら、黒いフィットの助手席から降りた。

ドアを閉めたとき、あることに気がつく。



「あっ、そういえば三木くん、お金!」

「は?」

「昨日の! 飲み代とタクシー代、私払ってない!」



言いながら、慌ててバッグの中をまさぐった。

そんな私を運転席から見上げ、三木くんがふっと笑う。



「森下さん、ちゃんと昨日払いましたよ」

「え? や、だって……」

「払ってました。だから、大丈夫です」



やたらとキッパリした口調で言われて、思わず押し黙った。

さっきお財布の中見たら、ひとりで飲んだお店の分しかお金減っていなかったから……私が払ってないのは、間違いないと思うんだけど。

けど、三木くんは、私がすでに払ってると言う。


……私が気を遣わないで済む理由をつけて、おごってくれたのか。

ほんとに、もう……三木くんって、やっぱりよくわからない。
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