Chocolate Fondue
三栗は、去年、採用された社員である。
職歴では香神の五年後輩にあたるが、企業からの転職組なので、歳は一つ下の26歳。
いわゆるイケメンではなく、どこにでもいそうな、ごく普通の青年。
大学時代を地方で過ごしたせいか、どこかのんびりしている。
柔らかい物腰が、年配の女性職員からもかわいがられている。
女性が多い職場に、三栗はまったく違和感なくとけこんでいた。
ベトナム料理の時も案内メールの宛先に三栗が含まれているのを見て、「来てくれたらうれしい」と、香神は密かに期待していた。
それは、好きには至らないけれど、ちょっと気になる、ほのかな憧れにも似た気持ちだった。
二人は別の支店に配属されているため、仕事では関わりがない。
顔をあわせるのは合同研修か、歓送迎会くらい。
それも、一年に一度あるかないかなので、まだ数えるほどしか会ったことがなかった。
一目ぼれではないが、会った瞬間、「この人、いいな」香神はそう思ったのだ。
香神はどちらかと言えば不器用で、自分から声をかけたりすることは苦手だった。
小学生の頃から、友達の輪に「いれて」と言えなくて、誘ってもらうのを待っていた方で、社会人になってからもその性分は変わっていない。
容姿は中の下くらいと自分では思っている。
ぽっちゃり体型のせいか、自分に自信が持てず、異性というだけでかまえてしまい、同年代の男性とうまく話せず、未だに決まった相手がいなかった。