桜唄


何となく落ち着かなかくて、この場の雰囲気を白けさせたら今度こそどうしていいか分からなくなりそうだった。


冷たくなった両手に、白い息をふきかけた。

こんなの、一時的な暖かさにすぎないんだけれど。


そんな私をみて伊崎くんが

「野々宮手袋してないじゃん」

と言う。


今日は手袋を忘れてしまった。

寒くて感覚がなくなりそう。

みると指先は赤くなっていた。


「寒そうだし、カイロ持ってるからあげよっか」

伊崎くんがポケットからカイロをだして私に差し出した。

「いいの?」 

いいよとかまだ言われてないけど、橋田されたカイロにさわる。

指先に触れた温度。

あたたかすぎて、じんじんする。


「いいよ~つっても、それ律にもらったやつだけど」

「えっ」


律をみた。

律もこっちをみた。


真っ黒な瞳。


…なぜか、

そらせない、と思った。



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