桜唄


何か言わなきゃ。

何か。


「ほんとにいいの?」


そらせない。


「いいよ、俺は平気だから」


冷静で、おだやかで、感情の起伏の少ない声。

伊崎くんや翠とは正反対。


「わーありがとうっ!」


ほんとは、そんな気分じゃない。

でもこうやってわざと喜んで笑顔を見せる。

そうすれば、いやな思いをさせなくてすむ。



…私は。

感情の起伏は強いのか、弱いのか。

わからない。


偽物でつくろっているうちに、分かんなくなっちゃった。

律と出会った頃は、こんなことなかったんだけどな。


…ぜんぶ律のせいじゃん。

おかしくて、痛々しい笑みがこぼれる。



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