まだあなたが好きみたい

ファミレスで見かけた女の子だと窪川は言った。

そしてその子が好きだとも。


どうして。


こんな女の子っぽいもの、あいつが好き好んで買うはずがない。

きっと、あの子に頼まれて仕方なく持っているんだ。

冗談じゃなく、今度は彼女の気持ちを尊重して、窪川のほうが折れたんだ。

あの子の頼みなら、聞くんだ。

あの日、断られても顔に出さないよう努めて、窪川の一笑に従ったわたしを思い出す。

くやしかった。

あの子なんか。

特別可愛いってわけでもない、普通よりちょっと綺麗かな、くらいのあくまで平凡の評価を抜け切れない子。

わたしのほうがずっと可愛いのに。魅力的なのに。

それに。

あんたのことをあんなに悪く言ってたのに。

そんなに好きなの? ねえ。

わたしのことが好きだった頃よりも……?

そう思うや否や、睦美は力ずくで猫を鍵から引きちぎっていた。

無残に切れた糸の先。無理やり引っ張ったせいで猫の首が変な方向に傾いたけれど、気にしない。

スカートのポケットにしまいこむ。

睦美は教室の時計を仰いだ。今日は窪川の面談日。荷物があるのはそのためだ。

さっき出て行ったやつと入れ替わったのなら、彼ももうすぐ帰ってくる。

睦美は電子辞書を借りるのを諦め、自らのアナログ辞書をロッカーから抜き取ると、そそくさと教室を後にした。

< 281 / 432 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop