まだあなたが好きみたい
「きょう、自転車?」
「え?」
木野村は一瞬ほうけた顔をして、
「う、うん。チャリだけど」
若干、舌を縺れさせながら答えた。
「傘は?」
「差さないから……」
窓の方を向いて、恥じ入るような声。
菜々子はふっとほほえんだ。
「途中まで、いっしょに帰ろう」
たしか駅が同じはずとおもって水を向けると、木野村は、電車ではないと首を横に振った。
「駅にはただダチを迎えに行ってるんだよ。俺はここが地元で、駅は通り道だから」
「もしかして、帰りは通らない?」
「そっ、そんなことない!」
木野村は大袈裟なくらいに首を振った。
じゃあ、と菜々子が言うと、木野村は頬を上気させたままうなづいた。