まだあなたが好きみたい



「きょう、自転車?」


「え?」




木野村は一瞬ほうけた顔をして、



「う、うん。チャリだけど」



若干、舌を縺れさせながら答えた。




「傘は?」


「差さないから……」




窓の方を向いて、恥じ入るような声。


菜々子はふっとほほえんだ。





「途中まで、いっしょに帰ろう」





たしか駅が同じはずとおもって水を向けると、木野村は、電車ではないと首を横に振った。



「駅にはただダチを迎えに行ってるんだよ。俺はここが地元で、駅は通り道だから」


「もしかして、帰りは通らない?」


「そっ、そんなことない!」



木野村は大袈裟なくらいに首を振った。


じゃあ、と菜々子が言うと、木野村は頬を上気させたままうなづいた。


< 5 / 432 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop