氷の卵
昼になって、香織さんがやってきた。
不思議と顔を合わせることに抵抗はなかった。
今朝の出来事で、すべて吹っ切れたような気がした。


「雛!お茶しよ!」

「香織さん……。」


香織さんはまるで透き通っているかのようだった。

どうしてこうも短期間で、香織さんが変わっていくのか不思議だった。

どんどん美しくなる代わりに、確実に彼女は何かを失っていた。

生き生きした瞳と声は、何も変わらなかったけれど。

それでも彼女の中の何かが、音を立てて崩れていくのが分かった。


「そうだ、香織さん、いいものがあるの。座って。」

「なあに?楽しみだなー!」


香織さんが顔をほころばせる。
私は紙袋からフィナンシェを出した。


「これ、私が大好きなお菓子なんだけど、きっと香織さんも食べてくれるんじゃないかと思って。」

「わあ、おいしそう!いいの?」


ライムの香りの紅茶を、祈りを込めていれた。
香織さんが気に入ってくれるように。


香織さんは、微笑みながら一口頬張った。


「おいしい。」


紅茶を口に運んで、彼女は満足そうに笑う。

二口目を運んだ時に、私は安心してそっと肩の力を抜いた。

香織さんがまた少しだけ、私の側に戻ってきてくれたような気がして。


「香織さん。」

「ん?」

「私、香織さんのこと好き。」


香織さんは優しく笑った。


「私も、雛ちゃんのこと好きだよ。」


その言葉を、とても嬉しく思った。
いつの間にか、自分のことを愛してくれる人が増えていって。

それがただ、純粋に嬉しかった。
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