桜の木の下で-約束編ー




鏡の中で舞い踊る桜の花弁。

そして桜の木に座る
人のような存在が
チラリと映ったように見えて。



ちょっと、
鼓動が早くなってる。



再び、閉じて深呼吸して開くと
鏡に映るのはいつもの日常。



今度は、
私の顔だ……。




ほっと胸を撫で下ろして
私は鏡に映して、
髪を一通り確認して
鏡をゆっくりと閉じ鞄に片づけた。





「あれっ、さっきまであったばすなのに。
 桜の花弁失くなっちゃった」



小さく呟く司。


司は首傾げながら
狐に包まれたような表情を浮かべてる。




「見間違えたんだよ。
 
 だって、もうすぐ6月だよ。
 桜がこの時期に咲くなんて、ありえないよ」



司に言葉を吐き出しながら、
私は自分自身にも言い聞かせた。



「なんか不思議。
 なんだったんだろう。

 学院に来てるのが、
 YUKIって言ったから
 YUKIのマジックなのかな?

 YUKIに桜はつきものだし」



そんな司の話を聴きながら、
先ほどの鏡に映った幻想的な世界と
その中に佇む少年を思い出してた。



校門まで、二人で向かうと
その頃には、YUKIの姿も校門前にはなくて
生徒たちはそれぞれに、迎えの車に乗り込んで帰路に着く。


家の迎えの車に乗り込んだ司と一花先輩を見送って、
私はいつもの山の方へと歩みを進める。


コンビニの後ろから続く
わかりにくい山道を登り始める。


風を感じながら
太陽の光を感じて
ゆっくりと一歩一歩、
大地を踏みしめていく。


木の騒めきを聞き、自然を感じながら
歩き続けていると元気をいっぱい貰える気がするから。



弾み始める息をコントロールしながら、
山頂を目指す。



頂上に登りきった時
私はその場でゆっくりと深呼吸。


神聖な神社の空気を
肺いっぱいに満たして本宮へと向かう。


神社の空気は不浄のものがないみたいに
澄み切っていて疲れた体に、
沁み渡るように浸透していく。

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