桜の木の下で-約束編ー







「……まさか……」










映し出されて象られたその存在が
明らかになるにつれてボクの体は萎縮していく。


















「ふっ。

 鬼狩(おにかり)、
 久しぶりだな」



















その言葉を返したそのものは……
遠い古の親友(とも)。






そしてボクが過去に殺めた存在。




















……どうして……君が……。

















「……風鬼(ふうき)……」












懐かしい
友の名を紡ぐ。









もう二度と呼ぶことがないと信じた名前。










「かつての親友、
 風鬼はお前によって殺された。

 俺は……風鬼に非ず【あらず】」







声は眠っていたはずの
少女の声帯を通して紡がれる。










「ならば……名は?」











ボクが問い詰める様に
問うと無垢な少女の声色【こわね】で名が響く。
















「……紅葉(もみじ)……」















紅葉?










だけど……これだけでは、
彼女の真名【まな】を捕えることは出来ない。





体を起こして、ボクを見る少女に
息吹を生吹に整えて鬼の声で問いかける。





「君の名は?」






断ることを拒否させて
自らの言葉で必ず返事をさせる鬼の力。





「名前は……紅葉……。

 それ以外は何もわからない」





少女はボクに、
にっこりと再び微笑みかけた。





再び、襲い掛かる脱力感。





「紅葉は
 ……待ってるの……。

 あの人を……。

 あの人が私だけの人に
 なってくれるのを」




少女がボクに微笑みかけるたびに
ボクの体からは力が抜け落ちていく。










……何故……








こんなことは始めてたよ。






渾身の力を振り絞って、
空間を引き裂く鬼狩の剣。





その裂け目より、
ボクは逃げ帰る。





ボクは、
どうなっていくの?






















……咲……
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