桜の木の下で-約束編ー



早く人間界の情報を収集しないと。





目を閉じて意識を集めようとするものの、
まだ桜鬼の力を酷使するには早いらしく
気を高めるだけで、体が言うことを聞いてくれない。



気を高めるのを諦めて、
ボクは必死に体を支えながら、
神木の回廊を渡った。




抜け出したその場所、
いつもと同じ場所なのに、
同じ景色なのに、
その空気は何処か淀んでいた。





その淀みがボクを縛り付けるかのように
見えない何かで縛り上げていくようで
身動きも取れず、
息すらも吸えなくなってその場に倒れこんだ。












次に目が覚めた時、
和喜としての自宅のベッドに
ボクは寝かされていた。






目を開けた先に、
咲の姿はない。





「まぁ、
 目覚められたのですわね」


 

そうやって呟いたのは、
確か、咲の友達。


成長した今も、無垢な心を忘れず
鬼のボクの姿が視える射辺一花。




「何?
 一花、起きたの?」

「えぇ、司。
 咲のお祖父さまに伝えてちょうだい」




一花がそう言うと、
司は部屋を出て行った。




ボクは倒れたの?




記憶を辿るものの、
ボクの記憶の糸は何処かで断ち切られてしまっているのか
辿ることが許されなかった。




「一花、咲は?」





そう問いかけたボクに、
一花は目を伏せて、
紙袋を一つ差し出した。



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