桜の木の下で-約束編ー


「鬼狩、無様な姿だな」



そう言いながら近づいてくる風鬼。


「風鬼の姿をするな」


絞り出すような声で、渾身の力で剣を振るいあげて
風鬼の方に向かうものの、咲のところに辿り着くどころか
風鬼すらどうすることも出来ない。


風鬼の傍、紅葉はボクの力をいつもの様に削ぎ落とすと、
そのまま咲の元へと向かって、咲の首に手をかけた。



「桜よ。
 咲を守れ」



後僅か先に、愛しい咲の気配を感じながらも
動くことがままならなくなったボクは指先から桜の花弁を生み出しながら
咲を守護するように命じる。



桜が咲の首を絞める紅葉と呼ばれた少女に
意思を持って巻き付いていく。



桜の花弁越しに紅葉と呼ばれた少女の正体を見て、
思わず絶句した。





「依子さん」





何故?





「何故、依子さんを巻き込んだ」

「俺は何もしていない。

 彼女が俺を見つけたんだ。

 YUKIが欲しいと泣き続ける
 ソイツを、俺は抱きしめた。

 YUKIと過ごせる永遠の夢を
 楽しめるように、俺の血を注ぎ込んで。

 その日からアイツは紅葉だ。

 俺の意のままになる人形。

 紅葉の想いが深ければ深いほど、
 お前を捕えていく。

 鬼狩のお前が、
 人の世で芸能人として
 ノウノウと暮らすか。

 紅葉を使って、
 鬼狩が慈しむ全てを
 破壊してやるよ。

 お前が俺にそうしたように」







全てボクが悪いの?



意識が弱ると桜が緩む。





『紅葉、引きなさい』





その緩みを捕まえた途端に、
風鬼が告げると、
二人の姿は瞬く間に消えた。





安堵した途端に、
消える桜の花弁。


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