桜の木の下で-約束編ー



神木の回廊から、
鬼の世界へと立ち入る。




回廊を渡る間際、
一花と司から手渡された携帯電話を手に取って、
有香へと繋ぐ。



「和喜、何処にいるの?」



ワンコールで繋がる電話。

受話器の向こうからは、
心配そうな有香の声が聞こえた。



「有香、ごめんなさい。
 
 ボクは、
 やらなきゃ行けないことが出来たの。

 咲が消えちゃった」

「和喜?
 何、どうしたの咲ちゃんが消えたってどういう事?
 警察に届は出したの?」

「有香……」

「何?誤魔化そうと思っても駄目よ。
 和喜?」

「『大丈夫だよ。有香。
  咲は必ず助け出すから。

  ボクは必ず帰ってくるから。
  有香との過ごす時間も優しかったから。

  だから今は見送って。
  
  YUKIとしての世界を有香が守って欲しい。

  ボクの我儘を許して』」



鬼の力を込めて、有香に伊吹で伝える暗示と願い。


「和喜、わかってるわ。
 貴方の居場所は私が全力で守るわよ。  
 和喜、いってらっしゃい」


次の瞬間、そうやって言葉を言い返した有香。


「行ってきます」


そんな有香に言葉を返し、
通話を切断するとボクは鬼の姿に戻って
神木の回廊に手を翳した。



神木の回廊から、鬼の世界へ。


冬国【とうこく】へと足を踏み入れる。


身を切るような寒さがボクを突き刺し、
雪深い地へと、重力で叩き付けていくように
体が重くなっていく。



住み慣れた鬼の世界が、
こんなにもボクを拒絶している。



それは……この国が、
国主の存在を受け入れてないから?



負の連鎖の思考は、
ボクをゆっくりと突き落としていく。



咲……。





鉛のような足枷を感じながら、
何度も精神を集中させて、
契を頼りに、咲の居場所を探り続ける。


どうにかこうにか、
鬼狩の剣を手にして向かうのは秋国【しゅうこく】。


何度も何度も影を渡りながら、
息も絶え絶えに、
ようやく辿り着くことが出来た場所。



そこに姿を見せたのも、
紅葉と風鬼の二人だった。

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