桜の木の下で-約束編ー






「綺麗……」







空を眺めながら、
その美しさに思わず呟く。





だけどその月は、
人の世界の月よりも
何処か紅いように感じた。





「昨夜は、朧月にございました。

 今宵は、月も姫様への
 お目通りがしたかったのかも知れません」




って、一言多い。

私なんかにお目通りしたいと思う
物好きが何処に居るって言うのよ。


でも……朧月は春じゃなかった?



私が居た世界の季節は、
夏だった。



朧月という事は、
鬼の世界は今は春だという事?



「珠鬼、鬼の世界は
 今、春なの?」


問いかけた言葉に、
珠鬼は驚くような表情を見せた。



「……姫様。

 やはり、アナタの記憶は
 完全ではないのですね。


 姫様が暮らし続けた王宮は、
 その館の中央から外に向けて、
 春の宮・夏の宮・秋の宮・冬の宮と
 四方に分かれておりました。

 それぞれの宮がある方角は、
 それぞれの季節の村しかございません。

 今宵立ち寄りし村は春の城下町と続く村。

 王宮に入るまで、
 季節が変わることはありません」



珠鬼の言葉に、
言葉を失った。



季節を固定された世界。



和鬼……。



神木から続く、
和鬼が居た世界。



そこは常に、
乾いた木々の悲鳴をあげる
肌寒い場所。





和鬼がいるのは、
冬の何処か?

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