桜の木の下で-約束編ー





その場に立ち尽くすように、
息を潜めて中の様子を伺う。




この場所で、風鬼の気を感じた。



ならばボクを壊していく
紅葉と言う名の少女、依子さんもいるのかしら知れない。




そう推測して、
その場所から咲のお母さんを見つめ続ける。



暫く時間が過ぎて、
ボクの体の痛みが増し始めた頃、
咲のお母さんの首元を絡めるように
背後から抱きつく、紅葉の姿。


その紅葉はやがて大きく成長して
依子の姿をかたどると
依子は無機質に淡々と話し始める。











アナタの家族を壊すなんて
私には簡単なの。


アナタの家族を守りたければ
咲を追い詰めなさい。


咲をもっと苦しめなさい。



私からYUKIを奪ったあの子を。



あの子が居なくなれば、
YUKIは私だけのモノになるわ。








何度も何度も依子の言葉で
無機質に繰り返される静かな声。



ゆっくりと伸びる両の手に、
咲の母親の体は
ガタガタと震え続けてた。





ボクが悪いの?




ボクが咲に近づいたから?



ボクが咲を選んだから、
依子はボクを取り戻したくて
咲を傷つけるの?





ボクは……ボクが……。






ボク自身を責めれば責めるほど、
真っ黒いものが、
ボクの中から湧き出でる。





その真っ黒な感情のまま、
痛みに任せて、鬼狩の剣を握りしめて
その場所から飛び出した。
< 233 / 299 >

この作品をシェア

pagetop