桜の木の下で-約束編ー



ボクが知りたかった、
あの日の出来事を桜の木が教えてくれた。



だからこそ……
咲の母親が、本当に咲を苦しめるだけの存在ならば
いっそ、この手で摘み取ってしまいたいと思った。



ボクの手は、友を殺したあの時から
紅に染まったままだから。




神木の回廊で近くの鏡へと降り立つと、
次は鬼の力を借りて、
闇から闇、影から影を渡り続ける。



辿り着いたのは、
住宅街にある小さな一軒家。




その場所に近づくにつれて、
気になっていた通り、
風鬼の気配が漂っていた。





風鬼?
どうして……。




庭の方へと敷地内に足を踏み入れて、
中の様子を眺める。



窓越しに視界に映るのは、
子供が男の人と一緒に
楽しそうにお風呂に入っている姿。



そして女性は一人、
ソファーに腰掛けて、
大切そうに手帳を開いていた。





相手が見えないのをいいことに、
ボクは更に、部屋の中へとその身を移動させた。





開いている手帳に貼られているのは、
咲の笑顔が愛らしい、
小さな小さな写真が沢山。


隙間なく、貼られていた。





確かお母さんは、
咲のことがわからなかった。






神木はそう教えてくれたはずなのに。






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