桜の木の下で-約束編ー




『咲、出会ってしまったのだな』




晩御飯の時、
何時もは一言も言葉を発さない
お祖父ちゃんが噛みしめるように発した。



そうしてお祖父ちゃんは、
私の髪についた一枚の桜の花弁を
ゆっくりと掴み取って自身の掌へと乗せた。



季節外れの桜の花弁。

もう一枚、
髪に残されてたんだ。




お祖父ちゃんの手に乗った
その桜の花弁と、
私の掌に残されていた花弁が
その時間が夢ではなかったことを
リアルに教えくれた。



『咲の髪に付きし桜の花弁。

 その花弁より伝わる神気。

 その神気は我、塚本神社が祀る
 鬼の気。

 神さまの鬼と書いて、
 神鬼(シンキ)と呼ぶ。

 この土地に住み、
 いつもこの村を桜の神木と共に
 守り続けてくれた。

 その神鬼は、桜の木に住み
 今もこの地を守り続けている。

 遠い昔、わしも一度だけ
 神鬼と契を交わした。

 だから、わしは
 この神社を守る神主となった』



突然のお祖父ちゃんの告白は
正直、とってもびっくりしたけど
それでも否定することなくすんなり受け入れられたのは、
今日、私の身に起きた不思議な現実が
肯定されたからかも知れない。


お祖父ちゃんが
契りを交わした鬼。



塚本神社の守り神が
鬼だっていう事にもびっくりしたけど、
鬼ってもっと厳ついと勝手に思ってた。


桜の木に座ってた
あの少年はどう考えても、
線が細そうで厳つさなんて感じられない。




湯船の中、ブクブクと沈んで、
顔をつけると濡れた髪をまとめ上げて
ゆっくりとタオルに絡めた。




お風呂から上がって、
自室へと戻る。


お祖父ちゃんも
知ってた鬼の存在。





……会いたい……。






帰宅してからも、
気になって仕方がない
あのプラチナの髪の少年。



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