桜の木の下で-約束編ー



ボク自身が望んだ
……呪いの証……。



「悪い……珠鬼、咲を頼む」


ふいに意識が引っ張られるのを感じて、
咲を珠鬼へと託した。


珠鬼が咲をボクの腕から抱え上げると共に、
痛みと共に、闇が一気に侵食を始める。


体を支えることも出来なくなったボクは、
その場で倒れこむように身を横たえ、
痛みに耐え続けながら、終焉を覚悟する。


「馬鹿野郎。
 勝手なこと言ってんじゃねぇ。

 和鬼、まだ逝くな」


珠鬼の声と共に、ボクの体の中に
暖かい気が巡り始める。


その気が珠鬼の秘石の力だと、
すぐに結びついた。


「和鬼、お前まで勝手に逝くなよ。 

 親友(とも)は馬鹿ばかりだ。

 治してやる……。

 何をしてでも、治してやるさ。

 お前が今まで一人で抱え続けた問題を想えば
 俺が出来ることは、お前を助けることくらいだ」



珠鬼の声がボクを
現実へと引きとめていく。



痛みにあえぐボクに
珠鬼の声は何処までも優しかった。



「春の民たちよ。
 見ての通り、桜鬼は俺たちを助けてくれた。

 咲姫さまが負傷された。
 誰ぞ、姫様を寝所へ」


珠鬼の声が聞こえると同時に、
複数の民たちの声が微かに耳に届く。


「悪い、和鬼。
 移動する間だけ秘石を咲姫に使うぞ」


そう言うと、珠鬼の気配は
ボクから放れて、
咲の傍に近づいたみたいだった。


ゆっくりと民たちの声と共に、
咲の気が遠ざかっていく。


「悪い、和鬼。
 姫さんは、民たちに運ばせたよ。

 お前は俺が連れていく」


そう言った親友は、
ボクの体をラクラクと抱え上げた。
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