桜の木の下で-約束編ー


苦痛を伴って、
それどころじゃないはずなのに
不謹慎にも、珠鬼の優しさに昔を思い出す。



「懐かしいね。

 珠鬼は前にもこうして、
 運んでもらったことがあったね」
 


それは遠い昔の記憶。


川辺にボクと風鬼と珠鬼の三人で遊びに行ったとき、
ボクだけ足を捻って歩けなくなった。


先々へと歩いていく風鬼と違って、
珠鬼はボクの元に引き返して、
その時もこうして抱え上げてくれた。



「あの泣き虫和鬼が、大変だったな」



珠鬼の腕に抱かれながら、
懐かしそうに、気遣う様に告げた親友【とも】の言葉が
ボクにはとても優しかった。



「蒼龍より力を貸し給うた」

「そうか」




神の力を借りなければ、
大切な人一人守れぬほどに
ボク自身の呪いは、ボクを蝕み続けている。



「まぁ、今のお前はどっちなんだ?

 和鬼なのか?
 桜鬼神なのか?」
 

ボクを抱きかかえて、
歩きながら
ふいに珠鬼が発した言葉。



「どっちなんだろう。
 どちらもボクで、どちらも彼だから。

だけど永い夢を見てたみたいだよ」



そう返しながら笑いかけた。




ボクの心に残る咲鬼姫を愛しいと思う気持ち。


そしてもう一つの、
心の奥底から湧き上がるように流れ込む
咲を愛しいと思う気持ちは繋がっているから。




「珠鬼
 ……少し休むよ……」



そう言いながら、
親友の揺りかごに抱かれて、
ゆっくりと眠りへと旅立った。



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