桜の木の下で-約束編ー




最近の音楽に疎い私は、
今日、学校で騒がれていた
YUKIと言う名のアーティストのことすら知らない。



最近の曲、ホント何も知らない。


たまには勉強しなきゃね。




そのままTVを
つけっぱなしにしながら、
髪の毛のお手入れを続けていく。



TVから流れる曲は、
どれも知らない曲ばかりで念仏みたいな曲やら、
何を言ってるのかわからない曲。


エロティックな曲やら、
煩いだけの曲。



もう何がどういいのか、
正直私の理解を超える曲たちが続いていく。



耐えかねて、
チャンネルを変えようかなーとすら思った時、
画面の向こうから、
黄色い悲鳴にも似た歓声が湧き上がる。



思わず向ける視線。



ブラッシングをする手をとめて
思わず凝視する。




何故って?




そこに映っていたのは、
朱金の瞳に、プラチナの髪の
その人が、微笑んでいたから。


その映像の途中で
不思議な違和感が包み込む。



『YUKI、どうした?
 少しびっくりしたような顔をして』

『すいません。
 今日は宜しくお願いします』


TVの中、YUKIと呼ばれる
あの和鬼と名乗った少年と瓜二つの
その人は、司会者の男女に弄られながら会話を続ける。


『YUKIには心に秘めた人がいるってことですか?』


女性の司会者がそう言った途端、
YUKIを取り巻く雰囲気が一気に凍り付いた気がした。


『ファンの皆さんに届けたいメッセージぱかりなので』


直後、穏やかな言葉で発せられた
言葉は何処か人の心を
支配していくような感覚が宿る。


『いつも凄いですね』

『ホント、YUKIが来ると
 ここのホールが変わるよね』

『今回は新曲の宣伝を兼ねて、
 当番組に出演してくれました。

 YUKIさんの新曲は各放送局が一番を
 奪い合うくらい壮絶な戦いが繰り返されるそうですが
 今回はYUKIさんたっての希望で、当番組からの初放送とのこと。
 本当に嬉しい限りです。

 それでは。
 YUKIさんの大人気曲。

【月夜桜】と新曲の【憂季節】
 二曲つづけてお楽しみください』






何?
この感覚。


何事もなかったかのように綴られる言葉だけど
私の中に残る、先ほどの間での会話と
今の司会者の言葉、噛み合ってないよ。


そんな疑惑が残る中、
TVの中ではYUKIのステージが続いていく。




画面が暗くなり、
その空間に響く
透き通った鼓の音。


その鼓の音が一音一音響くごとに、
周囲の気が神聖なものに満ちていくような
力強い音色。

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