桜の木の下で-約束編ー




必然の出逢いを待ち続けた。




長い年月、
失われたボクの半身を
思い続けながら。








少女のことは知ってた。









桜塚神社の孫。




名前は、咲。



咲はいつもこの場所に来ると、
神木の桜に話しかける少女だった。




母親と二人で来た少女は、
母に置き去りにされて
泣きじゃくりながら、
桜の神木に抱きついた。


泣き疲れて、
幹に体を持たれかけて丸まって眠る咲を、
彼女の祖父である咲久(さくひさ)が迎えに来る。


そんな時間が何度も何度も続いた。



そんな咲の寂しさを
ずっと傍らに寄り添って見守ってきた。



やがて咲は、
泣くことをやめて強くなった。



強くなったって言うのは
違うのかもしれない。


正確には
強さの定義がわからない
迷宮へとはまり込んだ。


鬼のボクの役割。

この地を守る鬼として見守るのは、
長い年月の中のボクの役割。




咲と出逢って十年。





咲がボクを捕えることは
一度もなかったのに今日の彼女は、
明らかにボクを捕えた。





何故?






こんな感覚は、
咲久と出逢った時以来。





彼女が、
咲久の孫だから?




咲久に流れるボクの血が、
彼女を引き寄せた?




考えても答えが出ない
戸惑いの時間。



ボクは……。



 
闇に紛れ続けて、
ようやくボクの住処に繋がる
神木へと辿り着いた時、
ボクの視線は咲を捕えた。



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