桜の木の下で-約束編ー




神木を枕に眠り続ける咲。




それはボクが知る、
幼い姿の咲、そのままだった。



ボクは息を潜めて、
ゆっくりと少女の傍に近づいていく。




ボクが近づいても、
深く寝息を響かせる咲はピクリともしない。



心配になって恐る恐る
手を伸ばして触れた彼女の指先。



咲の体は冷え切っていた。



咲の体をボクの方に引き寄せて、
ボクの体温で温めながら、
もう片方の手を神木にゆっくりと伸ばす。




『教えておくれ』



小さく念じると大樹の記憶が、
ボクの中にビジョンとなって流れ込んでくる。



TV画面に映る
ボクの人の姿(かりそめ)。



TVが終わったと同時に、
自分の部屋を飛び出して
山を駆け上がってきた咲。


ボクの帰りを待っている間に
睡魔に負けて、
神木を枕に眠りについてしまった咲。







そんな咲が愛しく映った。





神木に翳した手を放すと
咲の冷え切った唇へとボクの唇を重ねる。




冷え切った体、
ボクが温めてあげるよ。





息を整えて、
鬼の息吹をゆっくりと流し込んでいく。



彼女の蒼白い顔は、
生気を得て血色を取り戻していく。



柔らかな唇が、
ボクの心にも安らぎをくれる。




咲の血がボクの息吹に刺激されて、
波打つように活発になっていく。




ゆっくりと唇を放すと、
咲の体を横に寝かせた。









ボクは何をしているんだろう。



自分の心がわからない。



……ボクは……。

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