桜の木の下で-約束編ー



「あぁ、ついに一花に続いて
 咲まで毒されたか?」


っとちょっと、うっとおしそうに呟く司。


「まぁ、咲。
 
 貴女もYUKIの虜なんて私、嬉しいわ。 

 ファンクラブもコンビニから簡単に入れるのよ。
 興味はあって?」



調子が悪そうな私に遠慮して
いつもの濃厚強烈スキンシップを自粛してくれていた
一花先輩がYUKIの話題になると段々活発になり、
今日最初のハグが炸裂する。




ぎゃぁぁぁぁぁ。




校内に響く私の悲鳴。




そんな二人のやり取りを見ながら、
司は隣で溜息をつくのが聞こえた。




その日、ポーっとしながらも
何とか学校の授業を終えた放課後。



夕方の部活動もお休みを貰う。



『咲、今日は無理しないで休みなさい。

 練習がこの後、ハードになるから
 ちゃんと体調管理もしていくのよ』



そう言いながら、私の手には
高級そうな箱に入った、
有名店のチョコレートを握らせる依子先輩。



「疲れたら甘いものも必要よね。

 お大事に、咲」



依子先輩に見送られて、
私は同じく習い事で、サッカー部の練習を休む司と合流し、
何時もの帰りとは違う、電車ルートの際に通る商店街を歩いていた。



流石に山越え出来る
コンディションじゃないだろうから。


入学以来、
初めて通る学校近くの商店街。



その通り道、本屋さんのガラス越しに
音楽雑誌の表紙を飾るYUKIが視界に映る。



「司、寄ってもいい?」



司の腕を掴んで、そのまま本屋の中に入ると
音楽雑誌コーナーに直行して、
その雑誌を手に取りレジへと向かう。

初めての音楽雑誌をそのまま愛しく抱きしめて、
私は司と二人、書店を後にする。


そしてCD屋の前を通った時も、
店内から聴こえてきたYUKIの歌声に引き寄せられるように
ふらふらと入っていった。


そんな私の傍、ちゃっかり司も入ってきていて
新作コーナーをガン見してる。


「あっ、Ishimael【イシマエル』のアルバム、
 ようやく出たんじゃん」



なんてテンション高く、CDを掴み取ると
レジへと駆け出す司。

そんな司を見送りながら、
固まって動けなくなる店内モニターの前。
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