桜の木の下で-約束編ー




ボクの希望。


そう願ったはずなのにいざ、
咲がYUKIの目の前に現れると戸惑いを隠せない。





『YUKI、よろしくて?』


楽屋のドアをノックした音が聞えて、
ボクは甘く柔らかい声色で彼女に入室を促した。


姿を見せたのは、
声の主でもある依子さん。


ボクがお世話になっている
所属事務所の社長令嬢。


そして……後ろにいるのは、
気配だけで十分すぎるほどに伝わる存在。

着物にスカートを重ねた
斬新な姿の咲が後ろに控える。






……どうして君が……。



……咲……

何故、君は……ここにいるの……?




ボクは君の記憶を消したはずなのに。


君の眼差しはYUKIを見つめているの?
それとも……?



『YUKI、こちら私の後輩・咲。

 さぁ、咲、ご挨拶なさって』


いやっ、違う。

ボクが求め続ける……咲だ……。


今……依子さんも
……咲……って言った。



別人じゃない。



残したYUKIの記憶を手掛かりに
彼女はこんなにも早く、ボクを見つけ出した。



彼女の一部となった、
ボクの血が証明してくれている。



咲を見つめるだけで、
あの日の契りを鮮明に思い起こす。

咲が依子さんに勧められて
ボクの前へと歩む。


動揺しているボクは
動揺を必死に抑えようと言い聞かせる。
< 51 / 299 >

この作品をシェア

pagetop