桜の木の下で-約束編ー



こういう時、
人の世は……手を交し合う……。



確か……そうだったね……。




『こんばんは。

 咲さん、YUKIです。
 今日は楽しんで行って』



ボクは、ゆっくりと咲の前に
手を差し出した。


暫くボクの手を握り返そうとしなかった
彼女は……数秒後に慌てて握り返してくる。



『譲原咲です』



彼女の温もりが指先から伝わる。


血の拍動が少しずつ激しくなる。




……血が共鳴していく……




『すいません。

 私、塚本神社の孫なんですけど
 YUKIさんは……
 そちらに行かれたことはありますか?』



彼女の言葉は続いていた。




……写真集……。


確かにあの桜は、塚本神社の神木を
モデルに生み出した。





『ないよ』

『そうですかっ。

 YUKIさんの写真集に写る桜の木が
 うちのご神木のような気がして……。

 気のせいですか……。

 変なこと聞いてすいません』





さすがだね。




君の記憶はボクが消してしまったのに、
君はこうしてボクに辿り着いてしまうんだね。
< 52 / 299 >

この作品をシェア

pagetop