桜の木の下で-約束編ー


「YUKI、どうしたの?
 あの咲って言うお嬢さんが気になるの?」


有香さんの言葉に、ボクは素直に頷いた。


「あのお嬢さんは、YUKIの大切な人?」


その問いかけにもゆっくりと頷いた。


「見つけたの?
 貴方が探し続けてた、その人を……」

「見つけたよ……。

 そして彼女もボクを見つけてくれた」



そう言いながら、目を閉じて意識を
あの御神体へと集中させていく。


離れていてもそれが成しえるのは、
ボクがあの神社の守り神であるが故。


御神体がボクに流し込んでくるイメージは、
どれも苛立ちを覚えるものばかり。




咲が苦しんでる。

咲が苛められている。



闇に捕らわれそうになりながら、
必死に友である司と一花に支えて貰い
前を向いて、壁を乗り越えようとしている咲。



「大切な人をボクは悲しませたままなんだ。
 だから、守りに行きたい。

 明日の朝までには、帰ってくるから」


それだけ告げるとボクは窓を開けて、
バルコニーに立つとそのまま、有香に『見えないよ』と暗示をかけて
その場所から闇に紛れて、影を渡ってあの場所へと急いだ。


ボクが辿り着いたその神社の境内に、
先客の姿を捉える。



「今、戻ってきましたわね。
 こちらに居るのはわかっててよ。

 姿をお見せなさい」


この地に住む視える者。

咲の親友である射辺一花の視線が
確実にボクの瞳を捕えながら強く言い放つ。



「ねぇ、一花。
 やっぱり居ないんじゃない?」


一花の妹になる司には、
今はもう、その力は消え失せているみたいだった。



「司、貴方は邪魔しないの。

 これも咲の為なんだから」



咲の名前に惹かれるように、
ボクはいつもの桜の木の枝に腰掛けた。

桜の花弁が数枚、形跡を残していく。



「見つけた……小さな角が愛らしい鬼さん。

 桜の上は楽しくて?」



穏やかに微笑みながらも、
目力強く、その芯はボクを逃がさないと
念で封じるように絡めとっていく。


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