桜の木の下で-約束編ー



「人の子よ。

 我【わが】姿、視【み】えし人の子よ。
 汝【なんじ】が名を問う」



神気を纏う鬼として対峙するボク。



「射辺一花 (いのべ いちか)。

 貴方、私の名を知れて満足?

 貴方も教えてちょうだい。

 私から咲を奪おうとする貴方は何者?」



ボクはYUKIとしての姿を保ち、
ゆっくりと地上へと降り立った。



「まぁ、貴方がYUKIですわね」


そう言ってボクを呼ぶ一花。



「由岐和喜(ゆきかずき)。
 アーティストとしてのYUKIはボクの仮初。

 ボクの名は和鬼。

 咲を慕う者。

 そして君が知る通り、この神社の神鬼(しんき)」



警戒を緩めて、
ボクの名を心の中に刻み込むように浸透させていく。


それを助けたのは、神木が教えてくれた
咲がボクのことを話したいと願っていた二人だと知ったから。


咲がボクのことを相談しあえる存在が居れば、
咲に寄り添う、闇が少しでも遠ざかるかもしれない。



「司、悔しいですわ。

 私の愛しいYUKIが、
 私のライバルだなんて」


「一花、論点ずれてる」


「でも大丈夫ですわ。

 愛しいYUKIと対峙することも
 咲の為なら厭いませんわ。

 YUKI、お答えなさい。

 貴方は今、咲がどのような身の上になっているかわかってて?

 依子の罠にはまり、蜘蛛の巣から身動きが取れぬように
 じわりじわりと大切なモノを奪われていく苦しみがわかって?

 依子がキツクなったのは、YUKIの存在があるからよ。

 和鬼として咲を守りたいと言うならば、
 YUKIとしても咲を守り切りなさい。

 仮にも神様が思う人、一人守れぬなど弱くてよ。
 
 違って?」




時に責めるように、包むように
言いたい放題ボクにぶつけてくる言霊。


言葉は乱暴でも、魂の思いは伝わるから。


二人と話している時、
背後から咲の気を感じ取る。



咲も会話するボクたちを見つけたのか、
息を潜めるように、
社の影に体を潜めて見つめている。




「咲、出ておいで。

 何時まで隠れているの?」



咲に向かって、ゆっくりと手招きをすると
社の影から逢いたかった姿をのぞかせた。
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