桜の木の下で-約束編ー





その現実が不安にさせるの。







二度寝することなく
ストーブの熱で暖をとりながら
朝まで過ごした私は制服に着替えて
いつものように部活の練習のため、学校に行く準備をする。



お祖父ちゃんの朝食を用意して、
ラケットと鞄を担いで、
御神木の方へと歩いていく。


冬休み中でも部活が休みになるのは
大晦日と正月の三が日だけ。




「……和鬼……。

 今日も居ないんだね」



神木の枝に座っているはずの存在が居ないことを
確認すると、それだけの朝のモチベーションが下がってる私。



鞄とラケットを地面に置いて、
ゆっくりと御神木に手を合わせる。



『おはよう、和鬼。

 今日も仕事頑張って。
 行ってきます』




祈りを捧げると、荷物を持って
学院までの山道を下山していく。


寒い冬の山。


ところどころに真っ白な雪が残り、
うっすらと氷が張っている水溜り。


霜をザクザクっと踏みしめて
ようやく辿り着いた、いつものコンビニ裏。

悴む【かじかむ】手に、息を吹きかけながら
少し温めると、靴下を履き替えて、
乾いたタオルで制服の革靴をゆっくりとふき取る。


髪を小さな手鏡で確認して、
いつものように学院の門を潜っていく。




「ごきげんよう。

 咲さま、皆さま部活に集まっててよ」

「えぇ。

 すぐに参ります。
 今日は少し遅れてしまって」



学院のシスターたちにお辞儀をしながら、
早々に更衣室へと駆けこむと練習着に着替えて練習を始める。


寒さで指が悴むのを感じながら、
手袋をつけて練習する乱打。



「咲、コートに入りなさい」


穂乃香先輩が私をコートの中へと指名する。

「お願いします」


気を引き締めて、ラケットのグリップを握りなおすと
一礼してコートへと歩みを進める。

「レギュラー陣、ボレボレスマッシュ」


穂乃香先輩のコールが響くと同時に、
レギュラーメンバーは、コートの所定の位置に順に整列する。


同時に対面コートには、
三人の部員がボールの入った籠を足元に置いてスタンバイ。


「練習始め」


指示が入るのと同時に、対面コートから順番にボールが打ち出される。

ボレー・ボレー・スマッシュ。

その順番に対面コートから打たれるボールを
打ち落としていくコート右側から左へと移動していく。


一斉に打たれるボールを一球も取り残さないように
打ち返して最後尾に並ぶ。


「聖子(しょうこ)タイミング合わせて。

 咲、狙いながら
 確実に打ち落としなさい」


< 91 / 299 >

この作品をシェア

pagetop