桜の木の下で-約束編ー


自分も練習に参加しながら、
絶えず目をひからせる穂乃香先輩。



悴む手を、擦りあわせながら
何とか練習終わりを告げるチャイムを聞き届けて
解散するテニス部員。


更衣室に雪崩れ込んで、
着替えを済ませて出ると、
そこには司の姿。




「お疲れ、咲」

「うん。
 ちょっと疲れたかも……。

 でも思い通りの場所に少しずつ
 コントロール出来るようになってきたよ」

「そりゃ、良かった。
 秋季大会から咲は期待の新人だもんね。

 ほら、期待の星が肩を冷やさないの」


そう言いながら司は、
私の肩に鞄の中のストールを取り出してかける。



ふんわりと編まれた、手編みのストール。



「これって……」

「そう、一花からの貢物。

 一花、推薦で大学も決まったし、
 マーチングバンドの部活も引退したしね。

 この冬休みも、暇を持て余して必死に内職してるよ。

 その成果の一つが、咲を温めるこれ。
 ちなみに、私の首に存在するこれも一花の作品なんだけどね」


司はそう言うと私の手を引いて校門を出た。


校門前のロータリーには横着けされた司の家の車。




「家までちゃんと送るから。

 今日は咲を連行」



そう言うと後部座席に、
私を強引に押し込んだ。


車の中には自宅から共に迎えに来た一花先輩が
編み物を続けながら座ってた。



「ただいま、約束通り咲、連行してきたよ」



司が告げると、編み物の手を止めて
一花先輩の強烈なスキンシップが炸裂。

例にもれず、
この日も車内には私の絶叫が響き渡る。




「あらっ、咲ったら可愛い」



そんな笑顔を浮かべて、
ハグから解放された時には
体力も気力も奪われてた。




……なんか……
意識が奥へと引っ張られる気がする。




その感覚に委ねるように、
私は意識を手放した。




次に目を覚ましたのは見慣れない天井。

ふわふわの羽毛布団。
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