小さな死神
「ほら。」
俺は超極さりげなく黒いレノマのハンカチを差し出した。友人の結婚式の引出物の中にあったもの。あいつらもう別れちゃったけど。

俺はありったけの勇気を振り絞って差し出した。差し出したんだよ。
まずい事に背を向けてる子の後ろから顔の真ん中に突き出したんだ。ちびだったし。

「きゃっ!」
まだ土砂降り。女子高生はびっくりしたみたいなんだけど、外に飛び出す訳にもいかず小刻みに震えてる。

再び勇気をありったけ
「いっいいからこれ。」
雨音に負けない大声を張り上げた。

女子高生は震えながらも受け取った。それから振り返りながらこう言った。
「・・・おじさん、ありがとう。」
「う?おじさんはないだろう?」
「え?」
「そんなに歳いってないんだけど。」
けど、女の子はハンカチをくんくん嗅ぎながら、下から見上げる。
「オヤジはオヤジだよ。うちのオヤジとそんなに歳違わないしぃ~」
「独身だぞ。オヤジはないだろ?」
「え?独身なんだ!・・・いくつ?」
おいおい、タメグチかよ。
「・・・29。」(ホントは32だけど)
「29ぅ~!うちの担任は26なんだけど・・・」
「担任と一緒にするなよ。」
「そっか、ごめん。つか、ありがと。」
女の子は、そう言ってハンカチで顔をぬぐった。
「またねぇ~。」
ひらひらと手を振り、いつの間にか小降りになった外へ飛び出した。ミニスカひらりん。
ふう~
あっ!あれ?若い子と話したのにどきどきしてない!これは発見だぁ!
発見?いや、そうじゃない。そうじゃないんだ。気のせいだ。この胸の高鳴りは・・・あら?高鳴り無いかも。
さっきまで、女の子がいたとこ、ちいさな水溜りが出来てる。そういやびしょぬれだったなぁ・・・。
「風邪ひくなよ。」
独り言
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