KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―



「さぁ、着いたよ」


私も数回だけきた事のある、lily crownの入っているビルのすぐ傍の駐車場に、彼は車を停車させた。

そして、私がシートベルトを外したり、コートを羽織ったりしている間に、先に降りた彼が、助手席の方へと回って来る。



ガチャッ。


「さぁ、お手をどうぞ、シンデレラ」

妙にこなれた動作でドアを開けて私に手を差し出す春斗さん。

その仕草はまさに王子様といった感じ。



……まぁ、見た目は王子様なんて生易しいものではなく、帝王って感じなんだけど。



「そ、そんな事までして下さらなくって大丈夫ですから!!」

ついかっこいいとか思っちゃって、うっかり彼に流されるように差し出し掛けた手を慌てて引っ込める。

僅かに熱を持った顔をブンブンと力いっぱい振ると、彼は可笑しそうに笑い、私の引っ込めた手を強引に握り締めた。



「まぁまぁ、そう言うわず。君はシンデレラで俺は君の王子なんだからね」


普通、自分で自分の事、王子とか言っちゃいますか!?

恥しくないのかな、この人。


見た目がかっこいいからまだ様になってるけど、見た目が微妙な人がそのセリフ言ったら、完璧にただのナルシストですよ?



ってか……


「……普通、シンデレラのドレスアップを担当するのって魔法使いのおばあさんですよね?」


そう、彼が今私にしようとしているのは、あくまで魔法使いのおばあさんの役割であった、王子の役割じゃないんだよね。

つまり、貴方は王子じゃなくて、魔法使いのおばあさん。


残念だったね、ドンマイ!!
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