あかつきの少女

不純な受験生

笹木加南子(ささきかなこ)が初めて彼女に会ったのは、真冬。



それも高校の試験会場でのことだった。



私立南沢高等学校は、国語、数学、英語の三教科の筆記試験と、



後日の面接からなっていた。



とはいっても、単願受験者の加南子の合格は、ほぼ確定していたのだが。


南沢は女子校であり、そのせいかは分からないが偏差値は48と、やや平均を下回っていた。



しかし加南子は余裕を見せることなく、決められた席に座り、黒板と腕時計を交互に見つめる。



なんとも言えぬ緊張した空気に、どこの教室も同じように包まれていた。


誰一人として、口を開くものはない。



当たり前だ。



二時間目、数学の試験監督が、まさに彼女だったのだ。



二十代後半か、下手をすれば三十…もしくは二十代前半。



黒く締まった印象の礼服に、明るく染められた髪は加南子にもひどく浮いて見えた。



――性格キツそう



心の中で呟き、小さく苦笑した 。



時間が来て、問題用紙と回答用紙が一人一人に配られる。



「ありがとうございます」



ちらと顔を見上げてみれば、彼女は小さく



「…うん」



と答え、次の机へと回っていった。



たったそれだけのやり取りで、ずいぶんと印象は変えられる。



他の受験者たちが静かに閉ざされた問題用紙を見つめるなか、



加南子だけは、



彼女の横顔を追っていた。





「では、始めてください」



試験開始のチャイム。



現実に引き戻され、シャープペンの芯の音と、



紙のすれる音があちこちでたてられる。



問題を全て解き終え、見直しも3回済ましたのを合図に



加南子はまた、引き戻されたかのように思考が切り替わった。



――あの人、いくつだろう



目を合わせないように彼女を盗み見る。



後ろでひとつにくくられた背中あたりまである茶色の髪。



少しだけクセがついていた。



パンツタイプのスタイリッシュな礼服。



深緑の髪留め。



キツそうな顔に似合わぬ優しげな声。



加南子はその一つ一つを焼き付けた。



――入学したら、また会えるかな





不純な受験生END


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