私たち、政略結婚しています。



同期の克哉とは、事あるごとに対立していた。
何かにつけて自分に逆らってくる私を、彼もさぞかし可愛くない女だと思っていただろう。

私は……ずっと伊藤が、好きだった。

我ながら子供みたいだと思うが、照れて反抗していただけなのだ。
赤い顔でモジモジしているだけだなんて嫌だった。

毅然と言い合っている方が、平静を保てたのだ。

常に人の中心にいて、仕事もできて、容姿は申し分ない。
そんな彼を嫌う理由なんて、私には当然なかった。

たけど彼のような人とどうにかなりたいだとか、そんなことを考えたことはなかった。
ただ……何も考えずに、見ていただけだった。


そんな私に突然持ち上がってきた結婚話。

…相手の写真を見ただけで、了承した。
優しそうで、大人びた雰囲気の男性。印象はそれだけだった。

実家の状態からしても断ることなどできはしない状況だったのだけれど、私自身の心もそれでいいと思った。

恋人もいないし、好きな人とは特別なことなんて何もない。心とは裏腹な態度を取りながら、密かに想うだけ。

「お父さん、…いいよ。私、この人と結婚するわ。相手の方がいいと言ってくれるのなら…」

私の言葉に、父と母は泣き崩れた。
そんな二人の肩をそっと撫でながら、私は不満に思うこともなかった。

無感情だった……のかも知れない。
何も考えずに流れに身を任せてしまえば楽だと思った。全てを運命のせいにして。

伊藤が私に振り向く可能性がないことから、逃げ出す言い訳だった。


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