私たち、政略結婚しています。



――『佐奈といつか、本当の夫婦になれるのかな』

以前、彼は私にそう言ったことがある。

遠い目をしてそう呟いた彼の瞳の裏にはおそらく中沢さんが微笑んでいたのだろう。
そんなことにも気付かないで彼との時間を楽しんでいた自分が恥ずかしくなる。

私はその時『あんた次第じゃない?』だなんて言いながら笑っていた。
あのとき彼はどんな気持ちでいたのだろう。

私を許せなくても仕方がない。
だけど、知らなかったんだもの。仕様がないじゃない。

「浅尾~。資料庫に行って『BF-73』の生地サンプル持ってきてくれないか〜。背景を合わせたいからさ」

「あ、はい」

部長に言われて立ち上がった。

考えても仕方がない。今はとりあえず、せめて彼の負担にならない仕事をしよう。
せっかく克哉のお陰で最終審査までこぎつけたのだから、無駄にはできない。
企画がなんとか通るように頑張ろう。

私はそう思いながら資料庫へと向かった。


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