私たち、政略結婚しています。

チーン。

エレベーターが到着して二人で乗り込む。

小さな密室で二人、黙り込んでいる。

あれから中沢さんを呼んでどうなったのだろうか。
私とはどうするつもりなんだろう。離婚届とか、もう用意したのかな。

何かを話したいのに、思いつく内容はどれも聞きたくないことばかり。

二人で暮らしていたときは、些細なケンカや笑いで会話が途絶えたことなどなかったのに。

まるで話したことすらない他人のようだ。

「…今…、大丈夫なのか」

「え?」

突然克哉が言う。

「その…実家にいるのか?」

「あ…うん」

返事をするだけで精一杯だ。

「ストーカーは?」

「あ、…大丈夫。見かけないわ」

「そうか。よかった」

「…うん」


天井を見上げる。
涙が零れ落ちないように。


< 42 / 217 >

この作品をシェア

pagetop