私たち、政略結婚しています。
バタン。
外に出て玄関のドアに寄りかかった。
一緒にいたら、離れられなくなる。
これ以上好きになりたくない。
「…強烈だわ…」
呟いて顔を手で覆う。
今になって自分の気持ちの深さに改めて気付くなんて。
終わろうと決めた、このタイミングで。
カツン。
そのとき聞こえた足音に、顔を上げた。
コンクリートの床を打つヒールの音。
カツ、カツ…。
暗がりから次第に顔が見えてくる。
「あら。…こんばんは」
にこやかに挨拶をする女性の顔を見て息が止まりそうになる。
「中沢さん」
私は彼女を見たまま動きを止めた。
「話し合いは進んだの?」
何も言えずに、ただ、その貼り付けたような笑顔を見つめる。
「私は今日、克哉に呼ばれたから来たの。彼、いるかしら」
「…ええ…。私はもう帰るから」
「そう」