叶わぬ恋の叶え方

「ああ、あの楠」

 隆々とした枝を広げるあの大木は、一の宮の象徴と言ってもいい。

「思わず僕も、あなたがやっていたみたいに幹にしがみついちゃいましたよ」

「え、ああ、あれですか! あんなの思い出されちゃ恥ずかしいですよぉ」

以前に境内で会った時、咲子は先生に大楠に抱きついているところ見られてしまったのだ。

「いや、あれはなかなか癒されましたよ。木のパワーをもらえたような気がしました」

 先生が微笑んで言う。

「先生、癒しっておっしゃいますが、そんなにお疲れなんですか」

 さっきから仕事が忙しいと言っているけど、彼はそんなに疲れているのだろうか。

「はい。でも、仕事のせいというわけではないんです。仕事量は例年どおりですから」

 咲子がたずねると、先生は寂しそうな表情を浮かべた。

「実は僕、4ヶ月前に妻と離婚したんです」

「離婚!?」

「はい」

 咲子はまたもや飲んでいたカフェラテを吹き出しそうになった。

 またもやびっくりした。

 今度はもっとびっくりした。

 彼女はまじまじと目の前にいる先生の顔を見た。

 彼は離婚をして傷心というわけだったのか。
< 75 / 121 >

この作品をシェア

pagetop