叶わぬ恋の叶え方

 少人数の参列者が見守る中、通夜はしめやかに営まれた。

 夜のお堂に読経の声が響き渡る。

 親戚にではこの10年近く誰も亡くなる人間がいないので、咲子が葬式に出るのは久しぶりのことだ。でも、家族も友人も誰も来ない葬式なんて初めてだ。

 焼香を上げる時に高村さんの白黒の遺影を見た。

 在りし日の彼は笑っていた。彼はその表情が語るとおり、明るい人だった。

 彼がもうこの世界にいないなんてとても不思議な気がする。自分の趣味の話を得意げに語っていたのが、つい先日のことのように思える。

 人というのはこうもあっけなくいなくなってしまうものなのか。

 その場にいた関係者から聞いた話によると、ああいう家族には自分たちの墓地すら買う余裕がないので、彼の遺骨は関係者の厚意でとある寺院の無縁塚に入れられることになったようだ。

 帰りしなに坂井先生が言った。

「ほんの数回しか言葉を交わさなかった人のために、あなたは涙を浮かべるんですね」

 式の途中、咲子は目に薄っすらと涙を浮かべていた。

「だって、高村さんは私の、柊えれなの数少ないファンでしたから」

「そうですね。彼はあなたのことが大好きでしたね」

 坂井先生は今日初めての笑顔を浮かべた。それはいつもの温かい笑顔の中に、ちょっとだけ寂しさが混ざっていた。

「だから今日ここに来てくれたんですね」

< 93 / 121 >

この作品をシェア

pagetop