チェンジ type R
第八章
 不安が心を満たす、隼人くんと相談するために次に送るメールの文面を考えようとするのだが……それすら思いつかないまま、いたずらに時間は過ぎる。

 もっと正確に言えば、あのメールを受け取った時点から私の思考は停止状態にある。
 頭を働かせようとすればするほど、思考が袋小路に迷い込むような状態だ。
 いかに思考を組み立てようとしても、論理を組み立てきる前に雑音が混ざり、思考は纏まることなく細切れになって散っていく。

 メールの相手が隼人くん。
 私の傍にいるのも隼人くん。
 二人の隼人くん――。

――どっちが本物なの?

 隼人くんの姿が映るような窓や鏡があれば、きっと『俺は本物だ!』くらいのことを叫んでくれて。
 きっと、その叫び声で私は落ち着きを取り戻して。
 二人で真偽を確かめるためのメールの内容を考えて。
 そんな展開もあったのかもしれない。

 しかし、現在は隼人くんが映るような鏡も、窓さえも存在しない。

 でも……どうしたら良い?

 きっと、バスが着いて、その中にある窓に隼人くんの姿が映るだろう。
 でも、もしかしたら……その隼人くんは私の作り出した『幻覚』かもしれない。
 幻覚の隼人くんは私自身が望む答えを言っているだけで――。

 考え出すとキリが無い。
 一刻も早く、バスが来てくれないだろうか。
 隼人くんともう一度顔を合わせて話をしてみないことには……その疑問さえ解決しない。

 次に窓に映る隼人くんが……幻覚でも構わない!
 せめて今は冷静に考えるための支えが欲しい。
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