負け犬も歩けば愛をつかむ。
「まったく……じっとしてられるわけないよな、この状況で」



諦めにも似た言葉を漏らすと、ベッドサイドに腰掛けたまま春井さんの横に手をつき、その顔を覗き込む。

長い睫毛、白い肌に染まる桜色の頬、赤く熟れた唇……

美しく、美味しそうな魅力を放つのに、食べてはいけない禁断の果実のようだ。

その誘惑に負けそうになり、滑らかな頬にそっと手をあてがう。



「こんな可愛い顔で寝られたらどうにかしたくなるだろ。……油断するなって言ったのに」



すると、彼女の瞼がピクリと動き、ゆっくりゆっくり目を開いた。

虚ろな瞳が俺を捉え、しばらく視線を絡ませていると、突然バッと勢い良く起き上がる。

やっとしっかり目を覚ましてくれたようだな。



「おはよう」

「お、おは、よ……えっ、朝!?」



すぐには状況を理解出来ないらしく、わたわたしている彼女が面白い。

だが、やはり俺が手を出すとは思っていないようだ。


……もう俺の我慢は限界に来ているんだ。少しは危機感を持ってくれよ。

君は俺を欲情させる、ただ一人の女なのだから──。


気が付いた時には勝手に身体が動いて、彼女を押し倒していた。

ベッドに沈み込む華奢な身体。肩につくくらいのボブの髪の毛が曲線を描いて広がり、濁りのない綺麗な目を見張る。

その瞳に映るのは、沸き上がる欲望を抑えられない、哀れな男の姿だ。

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